もう、夜明けだ。 数分前まであたりは闇に包まれて輪郭も定かではなかったというのに、今は周囲が明確に映し出される。 反面、アーチャー自身の身体は朧と消え失せようとしていた。 足先、指先が朝陽に熔かされるように透けていく。 その身を包む装甲も既に崩壊寸前といったところ。 陽光の元で晒される自分の惨憺たる姿に苦笑する。 しかし、どれだけ満身創痍だろうともう、問題は無い。 正直、ここまで保つとは思わなかった。 これは半ば奇跡に近い。 奇跡? 今更何を。 ああそうだ。 初めから奇跡の大盤振る舞いだった。 この時代に喚ばれたこと。 自らと対峙する事が出来た事。 ……そして、凛と出会えた事。 その全てが、ありえない奇跡だ。 英霊となって後、 常に心に願いながらも叶う筈は無いと諦めていた奇跡。 その奇跡の結果は思い望んでいたものではなかったが、それでも。 向こうから長い髪を揺らしながら少女が駆けて来る。 自分に負けず劣らず、彼女も襤褸屑のような姿と成り果てている。 もう、走る力など残ってはいないだろうに。 傷ついた身体で、ふらつく足で。 それでも、一心に自分の方へ駆けて来る。 彼が消えてしまう前に、きちんと別れを告げるために。 まるで迷い子の様に自分を見上げる少女。 全ては意味がなかったと、絶望の中で切り捨てた過去の中、燦然と輝いていた光。 彼女を守りたいと思っていたが、なんのことはない。彼女を泣かせるのはいつも自分だ。 過去も、……そして、未来も。 もう、ここで成すべき事は終わった。 未練も、後悔もない。 全ては無に帰す。 しかし。 それでもこの奇跡に感謝しよう。 朝陽が少女の髪を、肌を、目に移る全てを黄金に染める。 その名の示すとおり、凛とした姿で。 その眩しさに、一瞬目を細める。 この中身の無い心に再びこの想いを抱けた事を感謝しよう。 この世界と、人への愛しさを。 そして凛、君への想いを。 理想はやはり間違いなのかもしれない。 絶望を得て同じ道を辿るのかもしれない。 しかし今はこの答を自分も信じよう。 「答えは得た。大丈夫だよ遠坂。オレも、これから頑張っていくから」 |