イリヤの城からの樹海での全力疾走。
当然足元は大量の木の根。 それに足を躓かせてしまわぬよう、且つスピードは決して落ちないよう、全神経を費やして凛は走っていた。 少し後ろを同様に走っているはずの士郎とセイバーにまで注意を向ける余裕は、悪いが無かった。
こんなに切羽詰った状態なのに。 そんなところに意識が届かなくてもいいと思うのだが。 しかしそれは、唐突に、だがハッキリとその事実を凛に認識させた。
―――消えた。
ゆっくりと腕を確認する余裕も無い。 しかし、凛には確信があった。
契約を交わしてからずっと感じていた魔力の流出が途絶える。 今。 まさに今アイツは命を落としたのだ。 自分が今背を向けているあの城で。
思ったよりは保ったのね。
そう、冷静に思う自分がいた。 自分でも意外に思うほど頭の中が冷えていた。 アイツに別れを告げてから随分走った。 正直、これほどの時間持ち堪えられるとは思っていなかった。 自分は心の奥底でアイツを信じきれていなかったということなのだろうか。
ああ、やっぱり混乱してる。 冷静なんかじゃない。 無理に冷静に思おうとしてるだけだ。
サーヴァントとマスターという関係で無ければ、いつまでも彼の生存を信じる事も出来ただろう。 しかし、現実には冷徹な真実が凛に襲い掛かる。
別れた瞬間から覚悟が出来ていた事。 これは不可避の未来。 アイツに自分から事実上の死を命じておいてその現実から逃れようなんて虫が良すぎる。
そう、覚悟は出来てたんだから。 だからわたしは生き残らなければいけない。 覚悟が出来ていたのなら、今はアーチャーの生命を踏み台にして自分は生き延びねばならない。
そして……そうだ、部屋に帰ったら熱い紅茶を飲もう。 前にアイツが淹れてくれたように。 自己満足の悲しみに浸るのはそれからでも遅くない。 そのときに思いっきり泣いたらいい。 うん、そうしよう。 ハイ、もう考えるのヤメ。終了。
そうして、彼女は無理に理性で感情を支配した。 あとは、今できる最善の行動を実行するだけ。 それでこそ、自分は最強のマスターなのだから。
そう、最強のサーヴァントを持った、最強のマスター。
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