出すことのない手紙。

―――善行忠孝―――


前略
芝村 舞 様


少し、迷いましたがやはり貴方には何も言わずに行こうと思います。

戦闘に勝つための最善の策。
その為には、私はここにいるよりも関東にいる方が力になる事が出来る。
そう判断しての行為です。


そう、この言葉に嘘はありません。
しかし、的確に真実をついているのかというとそれも違う。
もし、この言葉が全てを占めているのならば、私は貴方に直接別れを告げてから熊本を離れたでしょう。
それが、出来ないのは、こうして逃げるように熊本を去るのは、
もうひとつの不確かな理由を貴方に感づかれることを恐れているからに他ならない。


恐れている。
そう、私は恐れているのだ。

目の前で士魂号が損壊し、戦場で貴方の死体を探す羽目になるのが、とてつもなく恐ろしいのです。
決して貴方を侮っているわけではない。
しかし、それは完全否定することの出来ない可能性のひとつであることは確かです。
貴方を士魂号から降ろすことは容易い。
だが、それをすることは出来ない。
私は貴方が決してそれを望まないことを知っている。
いっそのこと全てを投げ打って貴方を連れ去ってしまうことが出来ればどんなにか楽だろう、そう思う。
それが出来ない私はただ耳触りの良い言葉を口にしてこの場を離れるしか出来なかった。


臆病者の、卑怯者だ。


嘗て大切な人を守るために大切な人を傷つけることになった私は、
再び同じ過ちを繰り返そうとしているのかもしれない。



これから私は、関東に帰還します。
懐かしい古巣、そして新しい戦場へ。


貴方の、これから交わることはないであろう未来の幸福を願う。


草々

善行忠孝 拝







簡素な茶封筒に入れたそれを、善行は無造作に胸ポケットにしまい、部屋を後にした。
すでにまとめた荷物を手に。
町を離れる前に、一度だけ振り返る。
視界に映るのは、尚敬高校。
そして心に映るのは。


問題児と落ちこぼれの寄せ集め、中央政府の使い捨て部隊。
我が愛すべき5121小隊。






あとがき

……これぐらいの展開がなけりゃあやってらんねぇよぉ。
と、いうわけで善行です。
いや本当に。
恋人になって数日で関東を去られた私の衝撃ときたらもう。
ぐっはあぁ。←思い出している
言っていることに納得はするが今何故! って感じでしたね。
おう、後書きじゃなくて愚痴になってる。
ちなみにSS中に出てきた「茶封筒」は当然茶色の封筒ではなく100円ショップとかで売っているペラペラのあれです。

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