戦闘後、まもなく善行は見つかった。


 大破した指揮車の傍で、銃を握り締めた姿で。
 おそらく、最後の最後まで戦っていたのだろう。


 致命傷になったと思われるのは、左肩から下腹部にかけて走る大きな傷。
 そうとう深い。
 苦しみも相当なものだったろう。



 なのに。




「…なによ、この顔……」


 原は、両眼に涙をあふれさせながら、横たわる善行を見下ろした。
 いかにもくずれおちそうな彼女を、横から森が支えてやっている。


 善行の死に顔は、微笑をたたえていた。
 なんとも満足そうに。幸せそうに。


「ほっとしたんと、ちゃいますか」 


 ぽつり、と、加藤が呟く。

「もうこれで、原さんに酷い嘘ばっかつかんですむって、
 善行さん、ほっとしたんとちゃいますやろか」


 若宮がなんとも奇妙な顔をして加藤を見た。
 それに気がついた加藤が、静かな声で話す。

「ウチ、平時は事務やってるし、出撃のときは指揮車の運転やっとる。
 クラスもいっしょやし、善行さんとはけっこう一日一緒やったりもザラやった。
 ……そんだけ一緒におったら、わかるよ。善行さん、いっつも嘘ばっかついとるって……」


 なんでかまでは、ウチ知らんけどな。
 そう、言葉を締めくくる。


「くだらない。
 何をどうしようと、死んでしまったら終わりじゃないか」
「…瀬戸口指令」

 そう、瀬戸口が言う。
 瀬戸口は、善行の後を引き継いで、指令となった。


「死んでしまったら、何を成そうと意味がない。
 原副指令、あんたも、これからが勝負ですよ。
 …今まで全力で芝村からあんたを護ってきた人は、もういないんだから」


「わかって、いるわ」


 そう返答した原に、再び若宮は奇妙な顔をした。



「今日一日だけ、よ。
 明日になれば、私も自分の足で立っていく。
 ……だけど、今日は、今日だけは、ただ彼の死を悼むだけの馬鹿な女でいさせて。……お願い」


 そういうと、原は善行の遺体にすがりついた。
 その後は一言も発さなかったが、ただその小刻みに震える背中だけが、全てを表していた。



 一人屋外に出ると、若宮は空を見上げた。
 空っぽの遺体よりも、空を見上げている今のほうが、善行の死を実感できた。





 善行指令。
 あんた、本当に嘘が下手だったみたいですな。 






あとがき

善行戦死バージョンです。
こっちのほうが自然な展開ではないかと思われます。
「指令だけが戦死なんてあるの?」と思われたそこの貴方。
私は経験済みです。
と、いってもこっちの機体修理中に起きた戦闘での出来事なので詳細はわかりませんが。
どんな経緯でそんなことになったのやら。
ちなみに、指令が戦死してもオペレーター、運転手、銃手は戦死しません。絶対に。
不思議なので自分で勝手に解釈してみました。
戦死バージョンはただただ加藤と若宮のセリフが書きたかったのです。
原さんが上手く描けなかったのが心残り。

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