響き渡るモーター音。 その中で、小さな部品を調整する音が耳に入る。 「…また今回は派手にやったな」 士魂号から目を移さずに、まるで独り言のように茜が呟く。 「…ごめん」 「別に。これが僕の仕事だしな」 再び、沈黙。 何か話すべきか、何を話すべきか速水が思い悩んでいると、不意に茜が歌を口ずさんだ。 その心は闇を払う銀の剣 絶望と悲しみの海から生まれでて 戦友達の作った血の海で 涙で編んだ鎖を引き 悲しみで鍛えられた軍刀を振るう …ガンパレードマーチだ。 「…どこかのだれかの未来のために……」 「いい歌、だよね」 そう言った速水だが、途端に茜に睨み付けられた。 「いい歌、だって? どこがいい歌だって言うんだ。くだらない」 また視線を士魂号に戻して作業を続行する。 そのくだらない歌をたった今まで歌っていたのは自分じゃないか、と思いながらも速水は敢えて反論せず黙った。 そんな速水に気がついているのかいないのか、不機嫌な様子で茜は続ける。 「どこの誰とも知れないだれかの為に死ぬなんて馬鹿げている。 そんなものは戦いに膿み疲れた、もしくは理想を掲げなければ戦うことの出来ない臆病者の理想論だ。 お前はこんな馬鹿げたものに流されるな。 以前、僕は言ったはずだ。 僕のために戦え、と。 お前の命は僕のものだ」 茜の言葉に速水は少し微笑んだ。 やっと、彼の言いたいことが飲みこめた気がしたからだ。 「…わかった。 僕が死ぬときは、君のためだ。 僕が戦場で死んだら、君の為に死んだと思ってくれていい」 が、この言葉に対する茜の態度は予想外のものだった。 鼻であしらわれたのだ。 「フン、やはりお前はバカだな。 戦場でお前が散ったとして、それが誰のためだったかなど、誰に知ることが出来る? 最後の最後でお前が裏切っていたとしても、それはわからない。 現にお前は一度僕を裏切っているのだからな」 速水は、困惑する。 彼の求める答えが、自分にはわからない。 そんな、過去の罪さえひっぱりだしている彼の求めていることが。 「じゃあ、どうすれば信じてもらえるのかな…」 再び、茜に嘲笑われた。 「だからバカだというんだ。 答えは簡単だ。 死のその瞬間の思いが誰にも通じることがないのなら、死ななければいい。 ……それだけだ」 茜がそこまで口にした時に、警報が鳴った。 「201v1、201v1 全兵員は現時点をもって作業を放棄、可能な限り速やかに教室に集合せよ。 全兵員は現時点をもって作業を放棄、可能な限り速やかに教室に集合せよ。 繰り返す。 201v1、201v1、全兵員は教室に集合せよ」 顔をあげ、工具箱を閉じる。 「なんとか間に合ったな。 完調とは言いがたいがこれで戦闘には参加できる。 …いいか、忘れるなよ。お前は僕の為に戦うんだ」 「……わかった」 それだけの言葉を交わすと二人とも全力で教室へと向かって駆け出した。 校庭を戦車が走るのが目の端に入る。 本当に、生き残ることが出来るかどうかはわからない。 今日生き残ったとしても、次の戦闘では死んでしまうかもしれない。 だけど、せめて自分自身だけは信じていようと、そう速水は思う。 この借り物の命を返すまでは自分は生き長らえるのだと。 〜FIN〜 |